One Control最新アンプヘッド、BJF-S100開発者BJFインタビュー
BJF-S100をはじめ、One Controlの全てのエフェクター・アンプの設計を手掛けるBJFことBjörn Juhlにインタビューを行いました。
世界的なアンプ・エフェクトビルダーは何を語るのでしょうか。
楽器の設計・製造に於いて、Bjorn Juhlほど影響のある革新者は多くありません。70年代後半~80年代前半にパンクロックギタリストとしてのルーツを持ち、現在も音、デザインで独自の道を切り拓いています。
アンプのリペアショップ・技術者として始まったBJFEは、ギターショーでミュージシャンに見せるため、最初のBJFEペダル(後のBaby Blue Overdrive)を作りました。これが世界中から切望されるBJFEというペダルブランドのはじまりです。
現在、BJFEペダルはあらゆるペダルボードやスタジオで見られるようになりました。ペダルは手作業で制作され、妻のEvaの手によってカスタムアートワークが描かれています。
人気の製品を生み出したデザイナーはその栄誉に安住し、古いデザインを繰り返すこともありますが、Bjorn Juhlは常に進化を続けています。過去20年に渡り、Bjorn Juhlは様々な企業の素晴らしいアンプやエフェクトペダルの開発に貢献し、自身のワークショップでも手作業でBJFEペダルを作り続けてきました。
BJFEのサウンドをもっと入手しやすく、より手頃に販売できるよう自身のデザインを“翻訳”したいと考えていたBjorn Juhlは、ついに日本のファンでありサポーターでもあるOne Controlと協力し始めました。
BJF-S100のリリースを記念し、Bjorn Juhlのアナログサウンドデザインについてインタビューを行いました。
─ INTERVIEW ─
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──デザインの哲学や制作時の意図はありますか?
BJF: 設計者として私が影響を与えることのできる主な要素はプレイアビリティです。
サウンドには演奏しやすく、より楽しむことのできる特定の周波数があります。さらにプレイヤーを妨げたり助けたりする周波数があります。
私は誰もが切望する素晴らしいサウンドを研究し、何がその素晴らしさを生み出すのかを考えています。プレイヤーは自分が聞き、感じたとおりの応答を得ることができ、それによってプレイもさらに良くなります。
これが私がデザインに求めていることです。
──One Controlとの最初の製品は何ですか?
BJF: BJF Bufferから始まりました。当時バッファはペダルボードで“悪者”だと考えられていて、古いバッファの設計に由来する問題を回避するため、誰もがトゥルーバイパスペダルを探していました。何人かの有名なギタリストとの協力もあり、私自身も多くの実験を行った結果、アウトプットインピーダンスとインプットインピーダンスに関連する問題に気づき、BJF Bufferを開発しました。これはスタンドアロンペダルとしてだけでなく、スイッチャーのインプットバッファとしてOne Controlに導入されました。
バッファは必ずしも悪いものではありません。しかし、バッファは何もするべきではないのです。
では、何もしないという定義はどうすれば良いでしょうか?
ギターピックアップ、ケーブルの損失、様々なギターのアウトプットがどのように機能するのかについての知識を活用しました。
私はデザインの観点から音響的、経験的に取り組み、効率的に機能し、素晴らしいサウンドが得られるものを目指しました。
──これまでに設計したOne Controlペダルの中でお気に入りはありますか?
BJF: 常に最新のものです。それは未発売のものや設計中のものも含まれます。どうすれば良い製品が作れるのかを常に考えています。
例えばGOLDEN ACONRN OVERDRIVE SPECIALです。これはインテリジェントなプレイをするギタリストが使いこなす“D”スタイルのアンプサウンドを作るために設計したオーバードライブです。
私自身はそのスタイルのプレイは出来ませんが、そのスタイルのギタリストと一緒に仕事をしたところ、このペダルの設計段階での音は未完成で、インスピレーションを与えるものではないと気づきました。そこで、私はそのペダルに輝きを加え、私のようなロックンロールギタリストだけでなくインテリジェントなロックギタリストも満足するよう設計に取り組み続け、最終的に完成しました。ギタープレイは楽しくて刺激的でなければなりません。
そうでなければ、わざわざギターを弾くことはないでしょう。
私は本当に楽しめるペダルを作りたいと考えています。私は常にOne Controlの製品ライン全体を見て、更新できる製品がないかを確認しています。
つまり、お気に入りのペダルを決めると退屈してしまうので、ある意味お気に入りのペダルは一つもありません。完璧など存在しないからです。究極のギタートーンは存在しません。
私は常に未来に目を向け、魅力的で衝撃的、そして何よりも楽しく演奏できるものを探しています。
──アンプデザイナーとしての経験を教えてください。
BJF: 名前は出しませんが、私は何十年もアンプの設計・制作を行ってきました。現在の私の経歴はよく知られていますが、その前から別の会社でデザインの構築を行っていました。
私はキャリアの早い段階からソリッドステートと真空管の両方の設計を完全に理解することに取り組みました。
現在のアンプ設計者の多くは真空管アンプは完璧ですがソリッドステートの設計を理解している設計者は多くありません。ソリッドステートアンプは60年代後半~70年代には一般的でしたが、現在では難解な科学となっています。
この両方のスキルを持ち、さらに今も現役の設計者は世界中でも珍しいでしょう。
そして、これが前の会社が私を雇った理由です。
──One Control製品で使用される工場生産についてはどのように学びましたか?
BJF: 私にとってはOne ControlペダルのSMDテクノロジーと、ディスクリートの古いアナログ部品との対比は学習プロセスでした。以前所属していた会社のために設計されたいつくかの製品でもSMD製品に協力しましたが、One ControlのおかげでSMD製造を完全に理解することができました。
One Controlの製品は、私のこれまでの経験よりはるかに複雑でした。SMD設計、未知の部品には様々な静電容量が存在します。私達はもっと注意が必要です。それは長い成長プロセスでした。“プロフェッサー”は学校に戻らなければならなかったのです。
真空管、トランジスタ、そしてSMDまではかなりの道のりでした。それは私が知っていた全てを揺るがしました。SMD設計に真空管技術から取り入れることはあまり多くありませんでした。
──ご自身のアップデートが必要ということですね。
BJF: そうですね。真空管やソリッドステートのような古いテクノロジーはいつか無くなります。トランジスタや真空管はいずれ絶滅するでしょう。
ではアナログデザイナーは何をするのでしょうか?それは、現在のテクノロジーに依存しないものをデザインすることです。
One Controlでの仕事で、私(Bjorn)はまさにReBjornしたのです。
──One Controlの新しいデザインで達成したいものはありますか?
BJF: 人々がプレイしたり、より深いレベルでインスピレーションを得たりするような音があります。それが何かを正確に定義することは、私にとって重要でした。
私は音楽が人の脳にどのような影響を与えるかを研究しています。人の脳を笑顔にする音もあれば、気分が悪くなる音もあります。脳を魅了する素晴らしいサウンドを見つけるのが私の楽しみです。
そして、その知識を次世代のデジタルデザイナーにどのように伝えるかを悩んでいます。私自身は、今後何年に渡っても学び続けることになるでしょう。
例えばフィルタリングは13歳で電子機器で遊び始めて以来取り組んできたもので、音を効果的にフィルタリングする方法を学ぶために人生のほとんどを費やしてきました。
魔法は、サウンドが人間の脳にどのような影響を与えるか理解することから始まります。私はOne Controlのためにデザインする製品に魅力的なサウンドを組み込めるよう努力し続けています。
ワインのように、歳を重ねるごとに良くなり、自分の仕事がますます“旨く”なるよう努めています。人々を驚かせ、サウンドで魅了したいと思っています。
──One Controlの製造プロセスでオリジナルデザインを効果的に達成するにはどのくらいの作業が必要でしたか?
BJF: 素晴らしい学習プロセスでした。私はこれまでコンポーネントの選択と製造に制限されていましたが、「魔法のパーツ」というものは信じていません。
私の場合、コンポーネントから始めるのではなく、作りたい魅力的なサウンドから初めて、その機能に合わせてパーツを選択します。
One Controlのおかげで、工場レベルで実践的な製品の作り方をトレーニングすることができました。この10年間、新しいテクノロジーで自分が望むものを正確に作る方法を学ぶのに時間がかかりましたが、その結果、私が設計した通りのサウンドとパフォーマンスを発揮するペダルの全ラインが完成しました。
そして今、BJF-S66の姉妹アンプである新しいBJF-S100アンプが登場しました。S100の設計と構築はデザイナーとして最大の課題でした。
S100は私が“深いレベルで卓越したサウンド”と呼ぶものの好例です。
──新しいBJF-S100のデザインや制作について教えてください。
BJF: 昔ながらのギターの神様のサウンドを想像しました。スウェーデンの私の街には、UKプレキシスタックと素晴らしいサウンドのエコープレックスディレイを備えた、まさに神のトーンを持つ男が一人いました。そのサウンドをそのまま、多くの費用や重たい機材を使わずに届けたいと思いました。
また、小さな音量やダイレクトレコーディングでも大音量と同様に優れたサウンドを実現するアンプである必要がありました。BJF-S66アンプには満足していますが、S100とは全く異なります。
BJFEショップではS66とS100を組み合わせてステレオ412キャビネットで使用していますが、この2つを組み合わせると贅沢なトーンになります。そのトーン全てに史上最高のエコーとトレモロのデザインを組み合わせてもわずか5kg程度なのです。
──BJF-S100のエコーディレイは標準的なディレイと何が違いますか?
BJF: S66とS100どちらのアンプにも、現在のペダルラインには無い特別なエフェクトを加えようと設計しました。
S66のリバーブはPRUSSIAN BLUEをさらに繊細で心に残るよう微調整しました。これはメインサウンドが常に前に出て、常にアンビエントでサポートされるリバーブです。
トレモロセクションも同様に設計されているため、エフェクトがサウンドを追い越しません。
S100では、長年テープエコーの開発と修理から学んだ全てが注ぎ込まれています。私は、「真のギターの神様」はテープエコーを微調整し、工場出荷時よりゲインレベルを高くしてヘッドを動作させていることに気づいていました。
これによりビッグなトーンが得られ、有機的な歪みが加わり、全体のトーンが向上します。
S100のテープボイスエコーは、サウンドを支配しない“常時ON”エコーを得ることができます。これは、私が“ギターの神様”を聴きに行ったときのようにサウンドを強化します。有機的なリバーブのように設定したり、伝統的なテープエコーのように設定したりできます。
これは長年ディレイペダルを作ってきた私の経験と実験の結果で、そのサウンドの良さに満足しています。エコーをワイルドにしても、サウンド全体を乗っ取らないようにします。
人々はジェットコースターを好みますが、ミュージシャンはカオスを好むので、少しワイルドな不完全さも必要です。ロックンロールにはこの性質があります。そして、それが私達の愛したクラシックテープエコーサウンドの真骨頂です。
──One Controlは2020年のNAMMでS100を展示しましたが、発売は2023年になりました。アンプの生産にどのような遅れがありましたか?
BJF: そうですね、新型コロナウィルスの影響でしばらく自粛せざるを得なくなりました。また、80年代にレコーディングして一緒にツアーしたバンド、Bradshowsのリハーサルも始まっていました。オリジナルアルバムをレコードでリリースし、いくつかのショーをブッキングしていたので、実際の現場でS100を使いたいと考えていました。
どんなミュージシャンも言うように、小さな練習スペースでは音が大きくなってしまう傾向があります。S100について、特に大音量の場合に改善できる点があることに気づき始めました。
低い音量のサウンドには満足していましたが、より高いレベルでは明瞭さとアーティキュレーションの調整、ハムバッカーとシングルコイルの違いを調整できるようにしたいと思ったのです。内蔵のスピーカーシミュレーターを改良し、EQセクションをリボイスしました。
発売されたBJF-S100は、実は基本的にS100 Ver.2です。
さらにあらゆる音量レベルや様々なギターでサウンドを明瞭かつ明確に保つため、2つのスイッチを追加しました。
──そのスイッチは何をしますか?
BJF: 1つのスイッチは適切な量の中低音域を追加するためのものです。
特にSTやTLタイプのギターでは、中低音域がもっと必要と感じることがありました。また、大音量で音が混雑した場合、高音域を強化するためにさらに高域を取り込むスイッチを追加しました。LPスタイルのハムバッカー搭載ギターにはブライトさが必要かもしれません。このスイッチはそれを可能とします。
2つのスイッチは(大きく音を変えるものではないので)必要になるまでは微妙に見えるかもしれませんが、必要になったとき、その力の大きさに気づくでしょう。
──S100では完全に独立した2チャンネル設計ですが、S66のチャンネルとの違いは何ですか?
──トモ藤田さんとの話し合いは、S100アンプに影響しましたか?
BJF: 私は自分のことをMr.Distorted、トモのことをMr.Cleanと呼んでいます。
Mr.Distortedはダーティでファジーなサウンドは演奏がとても楽しいと信じていて、Mr.Cleanが実際に楽しく演奏できるサウンドを作るために何年も取り組んできました。そして、クリーンスタイルのプレイヤーの多くは演奏可能な“クリーン”トーンを作るためにどれだけのゲインや歪みが必要かを知らないことがあるかもしれないと思いました。
S100のRhythmチャンネルにはクリーンでありながら十分なゲインがあります。硬すぎず、圧縮されずぎない素晴らしいサウンドを作ることも私の探求です。
トモには頻繁にペダルのデモを送っているので、トモはいつもS100のサウンドを聞いていました。Mr.DistortedとMr.Cleanの両方が気に入るものを作るのは大きな挑戦でしたが、私達はS100でそれを達成したと思います。
──One Controlの今後について聞かせてください。
BJF: 私はこれからも前に進み、学び続けます。完璧など存在しません。究極のギターサウンドは存在しません。常に未来に目を向け、魅惑的で衝撃的なサウンドを見つけていきます。
これを追求することで、全てが上手くいきます。
私がもとめる素晴らしいものは、この界隈にあるネガティブなエネルギーを覆い隠します。素晴らしいサウンドの色合いはたくさんあります。常に次のサウンドは、史上最高のサウンドになるでしょう。
One Control BJF-S100
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